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浦和家庭裁判所川越支部 昭和31年(家イ)92号 審判 1957年3月01日

申立人 河村ソノ(仮名)

相手方 河村晋平(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

申立人と相手方との間に生まれた長男定男(昭和二〇年六月○日生)長女久代(昭和二一年一〇月○○日生)弐男正(昭和二四年三月○日生)の親権者監護者を申立人とする。

理由

本件申立の要旨は申立人は主文通りの調停を求めその実情として申立人と相手方とは昭和一九年四月○○日婚姻をなし長男定男、長女久代、弐男正を挙げたか相手方は昭和二六年一〇月○○日○○市内○○病院に入院し同年一二月○日同市○○○町○○病院で更に診察の結果重症の梅毒感染が認められたので鋭意治療させたが思わしくなく経済的な事情から更に東京都○○○郡○○町小川○○○○番地○○○○療養所に入院して現在に至つている。申立人は○○市内の米国駐留軍附近のキヤバレーに勤め会計事務員をしているが月収七、〇〇〇円位で三人の子女を抱えて相手方の入院費用を支出することができないので以来小遣として毎月一、〇〇〇円位を与えていたが子供の学費や生活費のためそれも出来ない状態に陥つたので昭和三〇年四月から相手方実兄河村真次に毎月五〇〇円位宛を相手方に小遣として貰う様にしている。しかし右河村真次その他相手方の親族も経済的に余裕がないので申立人はこれらの親族から申立人親子の面倒をみてもらえない状態にあるので長男定男には新聞配達をさせて僅かばかりの収入を得させ教育扶助を受けて三人の子女を教育しており相手方には医療扶助を受けさせている次第で申立人等母子は辛じて糊口をしのいでいる有様である。しかも相手方は進行痳痺という精神病で恢復する見込もないので申立人は相手方と離婚し母子の世話をしてくれる男があつたらその人と再婚したいとも考えて本調停申立に及んだというのである。

相手方の答弁は相手方は申立人のいうような病状で昭和二八年三月○日から○○○○療養所に入院治療を受けているが子供も三人あるので離婚する意思はない早く退院して申立人等と同居できるよう望んでいるというにある。

依つて審按すると記録中の戸籍謄本によれば申立人と相手方とが昭和一九年四月○○日婚姻しその間に昭和二〇年六月○日長男定男が昭和二一年一〇月○○日長女久代が二四年三月○日二男正がそれぞれ出生したことが認められ、参考人河村真次申立人本人各審尋の結果並びに証人大林正男の証言によると相手方は婚姻前から梅毒に罹つていたが昭和二六年頃から精神病の病状を呈し○○市内の病院で治療を受けたが手遅のため治癒せず入院費用等にも窮したので○○市から医療扶助を受け昭和二八年三月○日○○○○療養所に入院し爾来治療を受けているがその病名は進行痳痺という梅毒性の精神病で現在発言障害、言語蹉跌、痴呆状態にあり回復の見込は殆んどなくたとえ退院できても通常人の一〇分の一乃至五分の一位の能力しか回復できないであろうし現在の能力は零に近いという状態にあること、一方申立人はここ数年間○○市○○○のキヤバレーの会計係を務めて得る月収七、〇〇〇円で三人の子女を養い生活の道を立て毎月一、〇〇〇円づつ相手方に小遣を与えていたが子供の教育費等もかさんで来たので昭和三〇年四月からは相手方実兄河村真次に毎月五〇〇円づつ相手方の小遣を出して貰い長男定男には新聞配達をさせて僅かではあるが収入を得させなお教育扶助をも受けて三人の子女を教育していること、相手方親族には実兄の上記河村真次外三名があるがいずれも資力はなく相手方に代り申立人等母子の生活を補助することは困難でただ実兄真次が相手方に毎月五〇〇円の小遣を与える位のことしかできない実情にあること、申立人は他に収入の多い働き口をさがそうとしても人妻となつていては自由に職を選べないし申立人親子の世話をしてくれる人もなく、このまま相手方との婚姻を継続することは生活苦を増大するばかりであること、等の事実が認められる。

以上の事実に鑑みると申立人と相手方との間には婚姻を継続し難い重大な事由があるものと解するのが相当である。

よつて申立人と相手方とを離婚し上記三人の子女の親権者監護者を申立人に指定することにし家事審判法第二四条に則つて主文のとおり審判する。

(家事審判官 上方一義)

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